上流産業と下流産業

いま仮に、上流産業と下流産業と名づけたが、こういうことを言いたい。

第一次産業は農業など、第二次産業は工業など、第三次産業はサービス業などとすると、
それぞれ、川の上流、中流、下流だと思うのである。

川の上流でつばを吐けば、中流と下流の人々はその水で洗濯をしなければならない。歴然とした権力関係がある。

そういうことだ。

それぞれ、小麦農業、椅子職人、ネイルアーティストとする。
給料上げろとストライキしたとして、有効なのはどれだろう。
もちろん、小麦農家だ。皇居の芝生に小麦を植えることにしたとして、収穫にはしばらくかかる。
無効なのは、ネイルアーティストだ。
椅子職人はその中間。しばらくは畳でもいい。

独立自尊の思考ができるのは小麦農家である。
人の顔色は関係ない。天気だけが問題だ。

ネイルアーティストは、お世辞なのか、本心なのか、分からなくなっているだろう。セールストークを毎日言って、それを嘘とも卑屈とも思わない。「お似合いですよ」なんて、まったく意味もなく言っているのだ。

通商も大切だ。八方の人と仲良くするのもいいことだ。しかしどこでもお世辞も言い、嘘も言い、それで平気になっていく。「とってもお似合いですよ。」「お肌の白さから言えば、やはりこちらでしょう」「目力がポイントですね」

アメリカは第一次産品を輸出していて、オイルもあるから、他国と喧嘩しようと思えば、できるのだし、だからこそ軍事力を蓄えている。その軍事力があるから、金融工学で乱暴なことをしても、世界は文句をいわない。著作権のことも許している。

世界のどこかの国で突然共産主義政権が誕生し、その政権は世界のどこの共産党とも資本家とも独立しているとすれば、資産の全部を国有化することもできるはずで、そのことを阻止する国際上位法はないはずだと思う。

日本は、小麦をもらっている米国に文句が言えない。
牛肉をもらっているから、文句が言えない。
牛肉屋はアメリカ産を国産だと言って高く売る。
日本は産油国に文句が言えない。
メタミドホス餃子を売りつれられても、一応外交声明を出すだけらしい。
半島の北には強く当たっているが、何のことはない、相手は世界の最貧国である。
喧嘩するにも足りない。
役に立たないミサイルまで付き合いで買っているが、買わなければならないのは、農業事情があるからではないか。守屋夫婦のせいばかりでもないのだろう。それにしても、あのミサイルが、空中で北のミサイルを打ち落とすというのだが、そんな恥ずかしい嘘をどうしてマスコミは流すことができるのだろう。そこまでレベルダウンしてしまっているのか。

というわけで、真の独立国家になるためには、軍事力も結構だが、まず食糧だろう。

三浦半島のスイカと大根はおいしい。
三浦農協の団体旅行は豪勢なことで伝説である。
子供を歯医者にしたかったら、農地を少し売ればよい。
株も、円・ドルも関係なく、今年もスイカはおいしいだろう。

そういえば、関東ではかつての宮崎の米を作り、
宮崎では温暖化に応じて新しい品種を開発し、
北海道ではジャガイモではなくサツマイモが作られている。

曾祖母も祖母も母も、庭にトマト、なす、ジャガイモ、はくさい、ほうれん草、とうもろこし、サトイモなど、植えていた。庭の一角には花畑があり、チューリップだの菊だの季節ごとのものがあった。お彼岸など、仏前用のものでもあったが、生活を彩るものでもあった。
わたしはそのトマトを食べて、その花を見て、育った。
貧しかったから、そうせざるを得なかった。
しかし現在、そのような自給自足の生活は憧れである。
男たちはどちらかといえば田んぼの管理をしていたようで、女たちは畑で自家用のものを栽培していた。白菜の漬物など、塩漬けで、おいしかったのだと思う。子供のわたしにはおいしいとは感じられなかったけれど。そういえば、漬物にしても、個人主義で、自分の漬物を持っていたような気がする。
料理は自分の好きなようにそれぞれが作って、それぞれが食べていた。ドライな個人主義者なのである。
これは他人に迷惑をかけない限り、好き勝手でいいのだという自信の表れだろうと思う。自給自足できている人たちはそれでいいのだ。

だからこそ、精神は高貴になる。独立自尊になる。

他人の思惑から一番独立しにくいのが、ネイルアーティストだろう。
また、文章家もそうだろう。生活していくための文章は、コツがある。そのコツを偉いものだと思える人はその世界で生きていける。そのコツを虚しいものと感じてしまえば、その世界には用はない。
偉そうにグラビアに映っていても、どうせみんな互助会なのだ。
工業界、製造業は、すでに互助会を解散しているが、
いまだに、文壇も芸能界も互助会である。
芸能人二世が生きていける場所。
しかも有能な人はもっとおもしろい場所に行ってしまうから、ますます才能は枯渇する。