1.眠れないことを、あまり心配しすぎないで下さい
このような状況では、どうしても睡眠が短く・浅くなりがちです。ただ、数週間から数ヶ月という単位で、睡眠が短くなっても、そのことだけで心配することはありません。交感神経の緊張が続いて、睡眠が短くなることで、直接健康に影響があるのは、血圧が高くなったり、糖尿病が急に悪くなったりする場合です。この二つについては要注意ですが、そのような心配がなければ、睡眠が短いだけで、急に健康が損なわれることはありません。ですから、眠れないことを、あまり気にしないようにした方が良いですね。
2.途中で目が覚めてしまっても大丈夫
途中で目が覚めてしまうことも多いと思います。睡眠は波があり、1~2時間ごとに浅くなります。家のベッドでは、この時に目が覚めませんが、悪い環境の中では、この時に目が覚めてしまいます。目が覚めてしまうことを、簡単に防ぐことはできませんが、たとえ目が覚めてしまっても、その間に自分で考えているよりは眠れていることが多いです。途中で目が覚めるということは、逆に言えば、その前には短時間でも眠っていたわけです。ですから、これもあまり気にしすぎない方が良いでしょう。
3.日中に、身体を動かし運動して下さい
しかし、そんなことを言っても、眠れないことが心配ではなくて、眠れないから疲れが貯まっていると思われる方が多いでしょう。あるいは、疲れを取るために、ぐっすり眠りたいですよね。この気持ちは、とてもよくわかりますが、実は睡眠は脳の疲れを取るためのもので、身体の疲れは眠れなくても横になっているだけで取れます。ということは、今のみなさんの疲れは、ある意味では脳の中で作られた精神的な疲れです。
避難されていると、日中も普段のようなに外に出かけたり、仕事や学校に行って、身体を動かすことが減っていると思います。身体を動かさないと、身体が疲れないのではなく、逆に血液の循環も悪くなって、身体もだるくなります。また、身体を動かすためには、脳をたくさん使いますが、身体を動かさないと脳も使いません。まだ、ご家族が行方不明で見つからなくて、イライラしている人も多いでしょうから、心配で頭がいっぱいの方も多いでしょう。でも、実は、不安を感じたり、将来のことをいろいろ考える時に使っているのは、脳のほんの一部です。脳の一部だけが使われて、他の部分はあまり使っていないと、脳の中でアンバランスが起きて、うまく眠れなくなります。脳は、よく使った部分がよく眠るという特徴があるからです。
ですから、精神的に心配なことがたくさんある時は、少しだけでも気分を変えるためにも、日中は少し走ったり、外に出られない方の場合は、ストレッチをしたり、自分の身体にも気を使ってあげてください。日中に身体を動かすことで、脳を満遍なく疲れさせることで、夜の睡眠が深くなります。気分転換にもなれば一石二鳥です。
4.日光に当たって下さい
運動だけではなく、寒い中ではありますが、やはり外に出て、日光にも当たってください。天気がよければ、午前・午後に15分ずつでも大丈夫ですし、曇っていても30分くらい出ればよいでしょう。停電・節電で暗い場所にばかりいると、日中に目が覚めず、またメラトニンという夜の眠りをよくしてくれるホルモンを作る量が減ってしまい、眠れなくなります。
5.いびきの対策をしましょう
神戸では体育館に1000人以上も避難していて、足の踏み場もない状態でしたが、そのような所では、周囲の音も気になりますね。少しくらいのいびきをかくのはお互い様で、しかたないのですが、いびきをかきたくないと感じる人も多いでしょう。いびきは、特に大きい音が出るのは、口呼吸をしている時です。鼻が詰まるとなりやすいですし、仰向けに眠ると、どうしても舌が咽喉の奥に落ち込みます。座布団や枕をかかえて横向きに眠るといびきは減りますし、鼻を通るようにすることも良いでしょう。また、あまりひどい方は睡眠時無呼吸症候群の可能性がありますから、落ち着いたら病院で相談して下さい。
6.仮眠・昼寝をお勧めします
夜間に長く続けて眠れない状況では、日中に、5分でも10分でも、一番眠い時に短時間眠るのがお勧めです。ただし、避難所では、自宅と違って、比較的早い時間に眠って、朝早く始まるという、ある意味では規則正しい生活になると思いますから、普段、夜型の人は寝付けなくて困ると思います。そのような方は、夕方を過ぎてから、ちょっとうたた寝をしてしまうと、寝つきがさらに悪くなってしまいますので要注意です。
7.眠る前にはリラックス
夕食後、眠るまでの時間は、できるだけリラックスができるようにするのが良いです。TVの報道も、かなり普通の番組に戻りましたし、被災したことを思い出すよりも、少しだけでも楽しい時間を過ごせると良いですね。さらに、身体の側のリラックスとしては、ストレッチのような運動が良いでしょう。身体を動かすことは、気持ちをそちらに向けるというだけでも意味があります。上越地震の時には、タッピング・タッチというリラックス法が活用されたと報道されていました。このような方法や、あるいは、家族や近くに避難している人同士で、肩叩きやマッサージをすることで、コミュニケーションを取り合って、リラックスできるのは、なかなか良いと思います。
8.羊を数えるよりも暖かい場所でも想像して
ここまで書いたように、眠るための工夫は日中に行います。眠りたい時間になっても眠れないときは、ある意味では手遅れで、その段階であせっても逆効果になるので、ベッドに入った後は、「寝よう」と考えないのが大切です。もちろん、将来のことが心配でくよくよ考えるのは、さらに眠れなくなります。そのため、意識を現実問題からそらすために、「羊を数える」と良いと言われています。しかし、それよりも、少し明るいことを考えた方がよく眠れると言われています。現実のことを考えるのは、翌日にすることにして、この被害を乗り切った時には、どこかの温泉でのんびりしよう、そして、その時の気持ちよい気分を「想像」するだけでも、身体がリラックスして、ぐっすり眠れます。
9.飲酒・睡眠薬について
被災直後は、お酒を飲むなんて不謹慎だと、みなさん思われたでしょう。しかし、2週間も経ちますし、少しだけの飲酒をしても良いと思います。ただし、たくさん飲んでしまうと、かえって睡眠が浅くなってしまいますし、 避難所では周囲に迷惑をかけないためにも、ビールなら1本程度、お酒なら1合程度が目安です。
睡眠薬も、本来は安易にお勧めすることはできません。しかし、たとえば、普段から比較的たくさんお酒を飲んでいた方の場合、飲まないとなかなか眠れないという方もいるでしょう。避難所でお酒も飲めず、辛い思いをしているくらいなら、睡眠薬の方が身体にも良いです。また、このようなストレスが多い時期ですし、心配で全く眠れないということもあるかもしれません。現在、使われている睡眠薬は比較的安全ですから、そのような場合には、しばらくの間、お薬の力を借りても良いと思います。ただし、これも、たくさん飲むのではなく、1錠だけにして下さい。たくさん飲むと、夜にまた避難が必要になった時に困る危険性があります。また、1錠だけでは、1日目は効きますが2日目以後は、それだけで、すぐぐっすり眠れるほどは効果がありません。しかし、途中で目が覚める回数が減ったり、目が覚めても、短時間で眠れたり、軽い効果があると思います。
(睡眠薬の飲み方の注意)早い時間に飲み過ぎないようにしてください。飲まなくても、眠気が出てくる時間より1~2時間前に飲むのが効果的です。深夜の12時とか1時にしか寝付けないのなら、午後11時頃に飲むのがよく、たくさん寝たいからといって、午後9時とか10時に飲んでも効きません。