不安性障害の発生病理・動物行動学的学習理論

不安性障害には最近ではパニック障害、SAD(social anxiety disorder=社会不安障害、social phobia=社会恐怖と同じ)、GAD(generalized anxiety disorder 全般性不安性障害)などが含まれる。大きくくくると、耐え難い不安が襲う病気で、原因は不明。生命に危険はない。重症の場合には日常生活が著しく制限され、一歩も外に出られない場合もある。なぜ起こるのかについては、不明である。
次のような仮説を考えている。動物は発生の途上で、「一生に一回限りの学習」や「強い学習」をする場合がある。たとえば、すり込みが有名である。鳥が卵からかえってはじめて見る動くものを親と思い、ついて回り、行動を学習し真似をする。これをすり込みという。動物学者コンラート・ローレンツのあとを鳥が追いかけている写真がある。ローレンツを親と思っているらしい。ことわざに「三つ子の魂百まで」という。また、音楽や言語には学習の臨界期があり、その時期を過ぎると脳は可塑性を失い「固まって」しまう。それは生まれ落ちた環境に適応するためのメカニズムであり、非常にうまく機能している。このような「一生に一回限りの学習」や「強い学習」は時期が過ぎればなくなるのだが、ある条件が揃うと脳は一次的に可塑性の強い状態になる。そこで不安を強く学習してしまう。
不安しか学習しないのだろうか?人間は記憶に感情という「印」をつけて、海馬に格納しているという説がある。悲しい記憶は近く同士、嬉しい記憶は近く同士に格納される。恐怖と不安は人間の感情の中で比較的強く、誤って学習されやすいと思われる。
あまりに強い不安・恐怖だった場合、または脳の可塑性が非常に亢進した場合、「強い学習」が成立する可能性が高まる。PTSDの形をとるパニック障害はその典型だろう。
脳の可塑性が亢進する状況としては、性ホルモン、甲状腺ホルモン、副腎ホルモンなどの影響を想定している。
人間は生まれ落ちて成人するまでは一定の環境になじんでいればよい。しかし性的に成熟して集団の外に出る場合などは、新しい適応が必要になる。性ホルモンが大量に分泌されるときはおそらく脳の可塑性が高まる。だからこそ、女性は嫁ぎ先のしきたりに順応もできる。性ホルモンが減少すると順応しにくくなる。その分安定した行動、感情を維持できるようになる。