OCDと認知行動療法 その3

OCDと認知行動療法 その3
体験者の感想から
有園正俊 OCDお話会主宰・精神保健福祉士

OCDの患者さんで、認知行動療法を体験された方3人に協力していただき、その感想を伺いました。
3人ともプライバシーに配慮し仮名です。
それぞれ、抱えていた症状も異なり、別々の治療者(医師、心理士)によって治療を受けました。
3人とも治療を継続中の方ですので、最近の事例です。
実際に治療を受ける前に知っておきたいポイントも補足しましたので、参考にしてください。

目次
§1 Aさん(不潔恐怖、加害恐怖)の場合
§2 Bさん(不潔恐怖)の場合
§3 Cさん(強迫性緩慢)の場合
§4 利用する前に知っておきたいこと
§5 まとめ

§1 Aさん(不潔恐怖、加害恐怖)の場合
Aさんは、30代の男性です。不潔恐怖を約10年、加害恐怖(注*1)を6~7年抱えていました。認知行動療法を受けようと思った動機は、それまで受けていた薬物療法の効果が得られず、認知行動療法に強迫性障害の治療実績があると知ったからだそうです。それは医療機関などからではなく、本やネットで調べて初めて知ったとのことでした。そして、認知行動療法を行っているところを自分で探したそうです。

Aさんが受けた認知行動療法は、次のようなものでした。
心理機関で、初回のみ2時間程度のインテーク(注*2)を行い、その後は、週1回(50分)通う。
3~4回に1度、定期的に心理検査を行う。
全30回の予定であった。最初の10回ぐらいを状況把握に費やす。
認知・行動・感情・身体、そして環境との相互作用の観点から、自分の状況を具体的に観察する。
その後、不安階層表を作成し、不安の低いものから曝露反応妨害にチャレンジする。
毎回、宿題が出され、具体的なチャレンジはその中で行う。
このような曝露反応妨害を行い、Aさんは、「いくつかの恐怖対象を克服することができた」そうです。ただ、それを根気よく続けるのは大変な面もあるそうです。

「曝露反応妨害法は苦痛を伴うため、続けるためには動機づけが非常に大切だと思った。私はそれが不十分だったことから、治療を一時中断してしまった。しかし、苦痛の先には治癒があると信じているので、今後、しっかりと動機づけを行い、曝露反応妨害法に再チャレンジしていきたいと思う」とのことでした。

Aさんの場合、この間、地方に転居したので、「地元には強迫性障害の治療に認知行動療法を適用している機関がないと思われる。そのため東京に通わねばならず、交通費の負担が大きくなってしまう。また、私の通っているところは、認知行動療法に保険が適用されないので、治療費の負担も非常に大きい」という経済的な負担の問題もあったそうです。

§2 Bさん(不潔恐怖)の場合
Bさんも、30 代の男性です。OCDの症状は、「本や文房具、パソコンなど、大切な物を(肉眼では見えなくても)汚してしまうかもしれないと思い、手洗いがひどくなった」というもので、強迫観念と強迫行為を、15 年くらい抱えていたそうです。認知行動療法を受けようと思った動機は、「『強迫性障害からの脱出』や『強迫性障害の治療ガイド』のような本を読んだが、ひとりでは無理だと思ったから」だそうです。
Bさんが受けた認知行動療法は、次のようなものでした。
外来のドクターによる治療のほか、心理カウンセラーによる毎回20 分程度のカウンセリングを行う。
不安階層表を作成して、曝露反応妨害法を実施した。
恐怖対象が診察室に持ち込めるような物の場合、ビニール袋などに入れて持っていき、ドクターまたは心理カウンセラーに見守っていただきながら曝露した。
自宅でもくり返し行った。
治療を受けて効果があった点は、「手洗いの時間が大幅に減った。本や文房具などを床に落としても平気になれた」とのことでした。

そして、治療の感想は、「生活がかなり楽になった。ただし、ひとりでは絶対無理だった。ドクターと心理カウンセラーに励ましていただいたからできた」とのことです。また、認知行動療法については「効果があるというエビデンス(注*3)があるとされるのに、普及していないのは残念」ということでした。

§3 Cさん(強迫性緩慢)の場合
Cさんは、20代の男性です。小中学生のころは、特定の疾病への恐怖(癌・エイズなど)があり、たとえば癌やエイズで死んでいく人を取り扱ったドラマなどを見た場合に、ドラマの中でその人がなっていた症状に自分もなっていないかということがすごく気になり、病院に検査に行ったりしたという経験があったそうです。

その後、ここ7年くらいは、強迫性緩慢(かんまん)という症状が現れました。強迫性緩慢というのは、強迫的な思考のために、他人から見ると動作がゆっくりで、とても時間がかかってしまう症状です。Cさんの場合、「勉強中などに、電気スタンドの位置はそこでいいのか、本から目までの距離は適正かなど様々な疑惑が発生し、作業に集中できなくなった」そうです。

Cさんがその治療機関を受診した理由は、「薬の治療だけでは治らなかったから。このままでは、学校(大学院)を退学し、引きこもりのようになってしまうと思ったから」だそうです。

Cさんが受けた認知行動療法は、次のようなものでした。
外来による治療だった。
アセスメントの段階で、どういう強迫観念が起こるのかを紙に書き出した。
勉強などをしているときに強迫観念が発生したら、その作業を中止し、音楽を聴いて強迫観念から気をそらすように言われた。
そして、その強迫観念へのとらわれが薄まってきたら、またその作業に戻った。
強迫観念が起こるたびにそれを行った。
そして、その結果、「かなり症状が改善された」そうです。治療の感想は、「自分の病気の本当の問題がわかった。細かい指示がされなかったので、治療をしていて不安になることもあったが、認知行動療法は、医師は治療の補助者で、自分が主体となってやっていくものだということがわかった」ということでした。

Cさんからは、これから治療を受けようと思っている方へのメッセージをいただきました。
「OCDで苦しんでいる方は、自分の不快な症状をなんとかして取り除きたいと考えておられるかと思いますが、認知行動療法は、苦痛を取り除く治療ではありません。苦痛に慣れるための治療法だと思います。そこをしっかり認識しておくことが、成功するために重要だと思います」とのことです。

§4 利用する前に知っておきたいこと
①保険がきくことの長所と短所
認知行動療法は、保険がきく場合ときかない場合とがあります。Aさんが利用しているような、医療機関ではない心理の機関(カウンセリングルームなど)では、保険がききません。従って、費用が比較的高くなります。

医師が行っている場合は保険がきくところもありますが、外来の場合、1人の治療に多くの時間がとれないことも多いのが現状です。それに対して、心理士が行っている心理療法やカウンセリングでは、通常、1回につき50分などと、時間を初めから区切って行います。

Bさん、Cさんの例では、保険診療で、短い時間でも、治療者がうまくやりくりしていて、患者さんがその効果を感じられるほどになっていました。これは恵まれた例といえるかもしれません。

②入院による認知行動療法
入院でOCDへの認知行動療法が受けられる病院はとても少ないです。OCDの分野で有名な医療機関では、全国から問い合わせがあるそうですが、受け入れ可能な地域を限っていたり、予約待ちのところもあるそうです。

③認知行動療法のできる治療者を探すには
現在、こうすれば治療者が確実に見つかるという方法はないと思います。また、地域によっては、Aさんのように、そのような機関がないところもあるようです。探す方法として考えられるのは、次の3つです。
①現在の主治医に相談する。

②当サイトの「お近くの病院検索」や「ウェブ版臨床心理士に出会うには」を利用して病院を探し、OCDへの認知行動療法を行っているか問い合わせてみる。

③都道府県には精神保健福祉センターがあり、そこは地域の精神科の情報をある程度把握しています。問い合わせてみると、何か情報が得られるかもしれません。
いずれにせよ、根気よく探してみるといいと思います。

§5 まとめ
OCDの認知行動療法を3回にわたって書いてきました。その1(認知行動療法とは)、その2(曝露反応妨害法)は、理論が主な内容でした。今回のその3は、3人の体験に基づく内容です。今回のコラムを読んで、前回までに読んで想像していた認知行動療法のイメージが、変わりましたか?

頭だけで想像していたこと(観念)と、実際の行動に基づいたこととは、違う場合も多いものです。ましてや、自分の体験を通してだと、もっと違うこともあります。認知行動療法では、OCDの患者さんが治療前はどう考えても不潔だとか危険だとか思っていたものでも、行動の体験を重ねていくと、この観念が、いつのまにか変わっていきます。

今は自分の症状が変わるだろうかと不安に感じる人もいると思いますが、体験前は、むしろそう思うのが自然だ、くらいに考えてみるといいと思います。

そして、Bさんの感想に「認知行動療法が普及していないのは残念」とあったように、Aさんからも「日本全国どこでも、保険適用のもと、気軽に受けられるような環境になってほしい」とありました。私は患者会などの活動をしていますが、そのような声は他にも多く、もっと受診しやすい環境になってほしいと思います。

最後に、今回、感想を聞かせてくれた3人に感謝致します。

注)当サイトの運営事務局では、個々の病院に関する問い合わせには、残念ながら対応できませんのでご了承ください。

●注釈
*1加害恐怖 ―― 強迫性障害の症状のひとつで、自分が誤って誰かを傷つけたり危害を加えたりしなかったかという強迫観念にとらわれること。
*2インテーク ―― 心理療法での初回の相談のこと。
*3エビデンス ―― 臨床結果の情報を集め、科学的に検証・評価された科学的根拠。臨床結果の科学的根拠に基づいた医療をEBM(Evidence Based Medicine)と言う。