対人関係療法(IPT)

 全ての問題が対人関係のみで解決するというわけではないとは思うが、それでも実際の現場で抑うつ状態に陥る大きな要因として対人関係の問題をあげる人は多い。社会で生きていく上で、他者との関係のあり方がその人の精神的健康に与えている影響の割合は決して少なくない。

 IPTで提示されている考え方や技法は、とくに斬新であるというわけではなく、これまでのさまざまな心理的技法や考え方の整理されたひとつの形なのだろうなと感じた。

 IPTの考え方のひとつである、その人の抱えている人間関係の問題(①悲哀 ②対人関係上の役割をめぐる不和 ③役割の変化 ④対人関係の欠如)を区別していくというのは、実際的でとても興味深かった。複雑な問題をこうして明快に分類して捉えることで、問題の本質を理解する助けになると感じた。

 対人関係でよく問題になるのは、相手に気持ちを伝えないことや、伝え方のまずさから生じるコミュニケーションの誤解であろう。この論文の中では、治療者の方針として、誰かに気持ちを伝えることを励ますこと、そして伝え方を一緒に考えていくことを大切にしている。
 面接の場では、相手の話を分かりやすく噛み砕いて、特には何度も言葉を変えてたずね返して、お互いの言葉を共通の理解のもとにさらしていく過程が大切にされる。それはコミュニケーションで生じる誤解や矛盾を極力減らしていく必要があるからだ。この論文の中の事例では「伝えること」でそのような誤解や矛盾を減らそうとしている。その結果人間関係の衝突は起こるかもしれないが、それも問題を解消していくひとつの手段として利用し、個人の対人関係を適応的な状態に変えていくという積極的な立場をとっている。
 ケースバイケースではあるが、伝えないよりも、伝えることで何がしかの状況の変化を促すことも必要な場合もあるのかもしれないと思った。