会計制度改革の節目となる2008年度到来
「会計ビッグバン」再来
4月1日から、いよいよ2008年度が始まった。会計・開示制度の世界では、この08年度を、大改革の節目と位置付けてきた。金融商品取引法における四半期財務報告と内部統制報告の運用が開始される年度となるからである。
金融商品取引法における四半期財務報告制度は、従来の証券取引所による開示ルールに比べて、財務諸表作成者(上場企業)に重い負荷がかかるといわれる。(1)貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書といった財務三表に加えて、注記情報に代表される非財務情報の開示が要求されること (2)公認会計士によるレビューを受けることが義務付けられること (3)提出期限が四半期末日から45日以内と定められていること – などがその要因である。
四半期財務報告制度による開示情報が、初めて投資家の目に触れるのは、7月下旬から8月上旬にかけてとなるが、07年度までの開示情報に比べて、どの程度充実したものになるか、財務諸表利用者(投資家)は大きな期待を寄せている。
内部統制報告の運用が開始する点も見逃せない。具体的な報告は、08年度末の状況について行われるため、まだ準備段階の企業も多いといわれているが、損益計算書やキャッシュフロー計算書の財務報告が適正に行われるためには、対象となる08年度の期首から、内部統制の構築・運用が十分な水準である必要があるだろう。
不正会計を未然に防止したり、コーポレート・ガバナンス(企業統治)を高めるニーズがますます強まる状況下にあって、内部統制報告制度が十分に構築・運用されているかを投資家の視点でチェックすることは、極めて重要なことである。
このほか、個別の新会計基準対応では、在外子会社の会計方針の統一、棚卸資産の評価における低価法の採用、キャピタル・リース取引における借り手側のリース資産・負債計上などが08年度から必須適用となる。いずれも、日本の会計基準を、国際財務報告基準(IFRS)と呼ばれるグローバル・スタンダードに近付ける上で行われた改訂作業であった。
08年度の財務報告は、ますます透明性の高いものへと変貌(へんぼう)していく。
IFRSへの収斂が加速
IFRSが世界中で用いられつつある現状を踏まえて、日本では、更なる会計基準の改訂が続いている。
IFRSを採用・参照する国や地域は、05年の欧州連合(EU)を契機に、豪州、香港、シンガポール、中国と広がった。カナダ、韓国、インド、ブラジルといった諸国もIFRSの採用を表明済みで、その目標年度は11年までとされている。
米国では、昨年11月、証券取引委員会(SEC)が、米国に上場する外国企業の財務報告に対するIFRSの採用を認めている。今年は、内国企業に対するIFRS採用の議論を本格化させる。議論が順調に進めば、米国でも13年にはIFRS採用が実現するとの見方もある。
こうした中、日本では、自国の会計基準とIFRSとの差異を解消する作業がますます加速している。その背景には、EUによる「同等性評価」と呼ばれる判断の結果を意識した対応がある。
EUは、日本や米国などEU域外で用いられる会計基準に対して、今年中にIFRSと同等か否かを判断する予定である。EU域内に上場する非EU企業に対して、これら第三国の会計基準の利用を、来年以降も認め続けるか否かを定めるためである。
日本の会計基準がIFRSと同等であるとの評価を得るために、IFRSと日本の会計基準の差異を解消する作業が続けられているわけで、既に、今年3月までに、工事契約、金融商品、持分法、資産除去債務など、さまざまな会計基準が新設又は改訂された。来る08年度も、企業結合や棚卸資産の会計基準改訂が予定されている。
一連の新会計基準がすべて適用される時期は10年度であることから、会計基準の変革は、少なくとも、まだ2~3年は続くと考えた方がよい。
こうした変革を乗り越えることで、世界の多くの国や地域がIFRSを採用する11年までに、日本の会計基準もIFRSとほとんど相違ない水準が実現する。つれて、日本の会計基準を採用する日本企業の財務報告の透明性も、極めて高い水準に達することになるだろう。
その先には、米国と同様、日本でもIFRSを採用する議論が想起されるだろう。その第1段階として、上場企業の判断で、連結財務諸表のみを対象に、日本の会計基準に代えてIFRSを適用する選択権が認められる時代が到来する可能性を、視野に入れておきたい。数年先、会計基準は世界的に一つに統合される。