マインドフルネス 自動操縦状態

マインドフルネスについての以下の文章を採録

ある日,夕食の後片付けでいつものように皿洗いをした後,気分が軽くなり肩の荷をおろしたような感じを覚えたことがあります。その時は,心配事をかかえていて少し気分が落ち込んでいたので,よけいにすっきりとした感じがしたのではないかと思います。では,なぜこんなに解放された感じになったのでしょうか。その時はその理由がわかりませんでした。

 私は臨床心理学の中でも認知行動療法を専門にしていますが,今その中でホットなキーワードの一つがマインドフルネスです。マインドフルネスとは,一言で言うと「注意を集中すること」です。私たちは普段自分のしていることを十分に自覚せずに,「自動操縦状態」で習慣的に過ごしていることが多いのです。皆さんが通勤・通学をしているときのことを思い浮かべてみてください。いつもの道を通り,いつもの電車に乗り,目的地に着いたとき,途中のことはほとんど全く意識にないということはなかったでしょうか。これが「自動操縦状態」なのです。それは,自分の心が現在ではなく過去や未来のことを考えるのに費やされているからなのです。過去の出来事について悔やんだり,懐かしがったり,あるいは将来のことを不安に思って恐れたり,楽しく夢想したりする,そうした中で現在の自分を見失ってしまうのです。そこで現在の瞬間を自覚し意識するために,価値判断をせずに意識的にその瞬間に注意を集中することが大切で,マインドフルネスとはこの注意を集中することを指すのです。

 マインドフルネスのトレーニングとしては,禅や瞑想,ヨーガが主に用いられています。そう聞くと何やら怪しげな宗教的な感じがして,不安に思う方もおられるかと思いますが,認知行動療法に取り入れられている方法は,1990年ごろにジョン・カバットジンが瞑想やヨーガをあいまいなものではなく,一つの技法として科学的研究に耐えるようにし,ストレス低減プログラムとして確立しその効果も検証されているものです。

 静坐瞑想やヨーガの他に「日常瞑想」として日常のいろいろな活動の中で「意識する練習」が行われます。例えば「皿洗いをしながら意識する」というのは,「まるでお皿が熟考の対象であるように,意識して洗う。」*1のです。私が皿洗いで経験したことは,このことだったのです。人は過去のことをくよくよと考えたり,先のことを不安に思い始めると次々に悪いことを考え始め,そうしてくよくよと考えている自分自身もまた悪く評価し,悪く考えるというサイクルに陥ることがありますが,皿洗いに意識を集中することにより,このサイクルから抜け出すことができたのでしょう。

 もちろんこれは皿洗いに限らず,日常のいろいろな行動をするときに注意を集中すればよいのです。お風呂に入っているときは,ゆっくりと時間をかけ体の上を湯が流れていくのをよく感じるように瞬間に注意を集中するのです。歩いているとき,掃除をしているときといろいろな状況で注意を集中するようにトレーニングすることができます。

皆さんも皿洗いをするときには,何も考えずただ皿を洗うことだけに注意を集中してやってみてください。何かが変わるかもしれません。もちろん,誰かにやらされているとか,うちの夫は家事を手伝ってくれない,などとは考えないで。

ただ,我が家では家内が自動食器洗い機を買ったので,皿洗いでストレス解消は難しくなりましたが・・・

*1 マーシャ・M・リネハン著「弁証法的行動療法実践マニュアル」金剛出版より引用

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マインドフルネス:今、ここにあるものに気づき、あるがままに、それを受け入れ続けること。

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「瞑想者が瞑想のときにもつべき心構え」のことをマインドフルネスと表現した